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モーツァルトが、すでに存在する曲を書き写すかのような恐るべき速さで作曲した事実に比べ、ベートーヴェンは苦悩と推敲を重ね、何度も書き直しを繰り返しながら一つの作品を生み出しました。そこには芸術家としての姿だけではなく、我々と同じく一人の人間としての生き方や生活感を感じ取ることができるのではないでしょうか。性格の全く異なる２人ですが、それぞれが唯一とも言える偉大な芸術作品の数々を世に残しました。ベートーヴェンは5曲のピアノ協奏曲を残しましたが、そのいずれも作曲家の晩年に至る手前に書かれ、当時のウィーンでピアノの名手、作曲家としての名声を獲得する上で重要な役割を果たしました。今回演奏する第3番は唯一短調で書かれた作品で、あの第5交響曲と同じく、ベートーヴェンが闘争の表現として用いたと言われるハ短調によるという事実も大変興味深いです。ベートーヴェンの時代はピアノという楽器が大きく発展を遂げる途上にあり、1800年当時のピアノでさえモーツァルトの時代よりは格段に表現力に富んだ楽器へと変化しました。ベートーヴェンの作品における多くの試みが物語ってるように、楽器の発展はこれまでにない多彩な表現力の獲得をもたらしました。初期の古典様式から抜け出ていない第2番までに比べ、この第３番はロマン派を予感させるような叙情性と情熱が曲全体を支配し、後の作品に見られるようなベートーヴェン的な響きの世界を紡ぎだした最初の作品といえます。曲は古典様式の長い序奏を持つソナタ形式の1楽章、青年期を回想するような叙情的な2楽章、活発で挑戦的なロンド形式の全3楽章となっており、当時30歳という若さで音楽の巨匠となったベートーヴェンの青春時代を感じさせる作品といえるでしょう。
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Music by Takushi Koyama
